大地震のあと、社員を帰すべきか、社内に留めるべきか。帰宅困難者対策として企業にどこまでの義務があり、備蓄は何日分あればよいのか。東京都の条例で従業員の一斉帰宅の抑制や備蓄が努力義務とされていることは知っているが、自社で何をどこまでやればよいかが見えない。そんな総務・防災担当の方に向けて書いています。私はニューヨークでの救急活動や国内の災害現場で、発災直後に人が一斉に動くことの危険を何度も見てきました。ここでは「むやみに帰さない」を実現するための備蓄と判断の考え方を整理します。
帰宅困難者対策で企業に求められていること
首都圏を中心に、大規模地震の直後は従業員をむやみに移動させず、事業所内に留まらせることが求められているとされています。目安として3日分程度の水・食料・毛布などの備蓄を努力義務とする自治体もあります。ただ、私が強調したいのは、これが「義務だからやる」ものではないということです。発災直後に多くの人が道路に出ると、余震や落下物、火災による負傷が増え、救急車や消防車の通行を妨げます。社員を留めることは、社員自身を守ると同時に、地域の救助活動を守る行動でもあります。
「帰さない」ためには備蓄だけでは足りない
備蓄が揃っていても、社員が「帰りたい」と言えば引き留めるのは難しいものです。家族が心配、子どもの迎えがある、ペットがいる。こうした事情を無視して「帰るな」と言っても納得は得られません。必要なのは、平時のうちに「地震のときは、まず会社に留まる。家族とは災害用伝言サービスなどで連絡を取る」という約束を、社員と家族の間で共有しておくことです。会社が留まる方針を出すなら、社員が家族と連絡を取る手段と時間を確保することも、セットで用意しておく必要があります。
備蓄は「量」より「取り出せるか」「配れるか」
備蓄で失敗しやすいのは、量は揃っているのに、倉庫の奥で取り出せない、誰も鍵の場所を知らない、配る手順が決まっていない、という状態です。私の経験では、水や食料に加えて、簡易トイレ、毛布や保温シート、携帯ラジオ、電源の確保が特に重要になります。トイレが使えない状況は、想像以上に早く人の心と体を疲れさせます。また、来客や近隣の人が施設に逃げ込んでくることも想定して、社員数より少し多めに用意しておくと現場が助かります。
「帰す」判断はいつ、誰が、何を見て決めるか
留めることが基本ですが、いつまでも留めるわけにはいきません。帰す判断の目安になるのは、余震の状況、鉄道やバスの運行再開の情報、道路や周辺の火災の状況、そして夜間かどうかです。夜に長距離を歩いて帰すことは、私は避けたほうがよいと考えています。判断する人は災害対策本部の本部長とその代行者、判断の材料を集める人は情報班、といった形で、誰が決めるかを平時に決めておいてください。帰す場合も、方向が同じ人同士でまとまって歩く、途中の休憩場所を確認する、といった支援まで考えると、社員の安全は大きく変わります。
明日やること
まず、備蓄倉庫を実際に開けて、鍵の場所と取り出し手順を複数人で確認してください。次に、「地震のときは会社に留まる」方針と、家族との連絡手段を社員に文書で伝え、家庭内で話しておいてもらう。そして、帰す判断の基準と判断者を本部の役割表に書き加える。受講者の方からは「家族と話し合うきっかけになった」という声を多くいただきます。帰宅困難者対策は会社だけの取り組みではなく、社員の家庭まで含めた備えだと考えています。
関連サービス
帰宅困難者対策を含む企業の備蓄計画や、留める・帰す判断を組み込んだ訓練の設計を支援しています。詳しくは企業向け防災研修のページをご覧ください。講演・研修のご相談はお問い合わせフォームからお願いいたします。