病院の多数傷病者・トリアージ訓練を「本番仕様」にするために
「トリアージの手順は知っている。でも、実際に数十人が同時に運ばれてきたときに、自分たちが回るのか」。救急医や救急看護師の方から、そんな率直な声を伺います。この記事では、病院の多数傷病者受入とトリアージ訓練について、手順の暗記ではなく「現場が回るか」を確かめるための視点をお伝えします。
私は救急隊員として、傷病者を病院へ運び込む側にいました。搬送先の病院が受入体制を整えているかどうかで、救える命の数が変わることを、現場で何度も感じてきました。
訓練で見落とされやすい三つの現実
一つ目は「傷病者は救急車だけで来ない」ということです。大きな事故や災害では、自家用車やタクシー、徒歩で直接来院する方が多数を占めるとされています。玄関に最初の受付とトリアージの場所がなければ、院内はすぐに混乱します。
二つ目は「トリアージは一回で終わらない」ことです。最初の判定は短時間で行うため、時間とともに状態が変わる方が必ず出ます。再評価の担当者と間隔を決めておかなければ、待合の中で急変に気づけません。
三つ目は「家族と情報」です。傷病者と同じ数だけ、あるいはそれ以上の家族や関係者が押し寄せます。誰がどこにいるのかを一元管理する担当がいないと、医療スタッフが問い合わせ対応に取られてしまいます。
机上訓練と実動訓練を組み合わせる
私が勧めているのは、机上と実動を段階的に組み合わせる方法です。まず机上訓練で、受付・トリアージ・各区域・記録・家族対応の役割を紙の上で配置し、情報がどう流れるかを確認します。ここで「この情報は誰に届くのか」が曖昧な箇所が必ず見つかります。
次に、少人数の模擬傷病者で実動訓練を行います。このとき大切なのは、傷病者役に「時間が経つと状態が変わる」設定を持たせることです。最初は歩けていた方が急に座り込む、という展開を入れると、再評価の仕組みが機能しているかが試されます。
受講者からは「手順は合っていたのに、置き場所と動線で詰まった」という気づきの声をよくいただきます。それが訓練の価値です。
もう一つ、搬送してくる救急隊との連携も訓練に組み込んでほしい点です。救急隊が院内のどこに傷病者を降ろすのか、引き継ぎを誰が受けるのか、救急車がすぐに次の現場へ戻れる動線になっているか。私が搬送側にいたときは、この受け渡しがスムーズな病院ほど、次の傷病者を早く運べました。地域の消防と合同で訓練する機会があれば、ぜひ活用してください。
訓練後に必ず残しておきたいもの
訓練が終わったら、うまくいかなかった点を「人の問題」ではなく「仕組みの問題」として書き出してください。たとえば「赤タグの区域が狭かった」「記録用紙が足りなかった」「家族の待機場所が決まっていなかった」といった具体的な項目です。
これを翌年の訓練の想定に反映させることで、訓練は毎年少しずつ本番に近づいていきます。同じシナリオを繰り返すよりも、前回の弱点を次のテーマにする方が、スタッフの当事者意識も高まります。
明日からできること
まず、自院の受入計画で「直接来院者の受付場所」と「再トリアージの担当と間隔」が決まっているかを確認してみてください。この二点が空欄なら、次の訓練のテーマはそこです。多数傷病者への備えは、一度に完成させるものではなく、訓練のたびに一つずつ埋めていくものだと私は考えています。
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