医療機器の転倒・固定を地震前に見直したい医療安全管理者の方へ
「転倒防止が大事なのは分かっている。でも、何から手をつければいいのか」。医療安全管理者の方から、そんな声をよく伺います。この記事では、地震のときに医療機器や薬品棚がどう動くのかを整理し、転倒防止・固定を今日から始めるための優先順位をお伝えします。
私は消防のレスキュー隊員として、地震後の建物に入った経験が何度もあります。人がけがをする原因は建物の倒壊よりも、室内の物が倒れたり飛んだりすることの方がはるかに多いと感じています。病院も例外ではありません。
地震のとき、病院の中で何が起きるのか
強い揺れでは、キャスター付きの機器が廊下や病室を走り回ります。モニターや点滴スタンド、ストレッチャーが数メートル移動し、人にぶつかったり、扉をふさいだりします。廊下に置かれたモニターが「凶器」になる、というのは決して大げさな表現ではありません。
薬品棚やガラス扉の保管庫は、中身が飛び出し、床がガラスと薬液で覆われます。それ自体が危険であると同時に、必要な薬がすぐに使えなくなるという二重の被害になります。さらに、倒れた棚や機器が避難経路をふさげば、患者を移動させること自体が困難になります。
優先順位の考え方
すべてを一度に固定するのは現実的ではありません。私が勧めているのは、次の順番で考えることです。
- 人がいる場所の近くにある重いもの:ベッドサイドや詰所周辺のモニター、棚、書架
- 止まると治療に影響する機器:人工呼吸器、輸液ポンプ、透析装置など
- 避難経路をふさぐ可能性のあるもの:廊下や出入口付近の機器、収納
キャスター付きの機器は、使用中はロックする習慣をつけるだけでも移動を減らせます。夜間は所定の位置に戻して固定する、という運用ルールも効果があります。薬品棚は、扉にラッチや留め具を付け、棚板に滑り止めや落下防止バーを設置するだけで、中身の飛び出しを大きく減らせます。
見落とされやすいのが、詰所や事務室の書架、天井近くに積まれた段ボール、壁に掛けられた時計や掲示板です。医療機器ではないため防災の対象から外れがちですが、揺れで落下すれば十分にけがの原因になります。「医療機器かどうか」ではなく「人の上に落ちるかどうか」で判断してほしいと、私はいつもお伝えしています。
医療安全の視点で「日常」に組み込む
転倒防止は、防災担当だけの仕事にすると進みません。医療安全ラウンドの点検項目に「キャスターのロック」「棚の固定」「廊下の機器の位置」を加えると、日常の巡回の中で自然に確認できるようになります。
また、機器を新しく導入するときに、設置場所と固定方法をあらかじめ決めておくことも大切です。後から固定するより、最初に決めておく方が、はるかに手間が少なくて済みます。受講者からは「点検表に一行足しただけで、現場の意識が変わった」という声をいただきます。
今日からできる医療機器の転倒・固定対策
まず、自分の病棟を一周して「揺れたら動きそうなもの、倒れそうなもの」を写真に撮ってみてください。そして、その中で一番人に近い重いものを一つ、今日固定する。地震の転倒防止は、大がかりな工事から始める必要はありません。一つ固定するごとに、守れる人が一人増えると私は考えています。
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