病院スタッフが被災したとき、運営とメンタルをどう守るか
「災害時の受入計画はある。でも、スタッフ自身が被災者になることを前提にしていない」。病院管理者や看護部の方と話していると、この点に気づいて言葉に詰まる方が少なくありません。この記事では、病院のスタッフが被災したときの運営の考え方と、「助ける側」の心と体を守るための備えをお伝えします。
私自身、消防・救急の仕事で大規模災害に何度も関わり、助ける側の人間が限界を超えて働き続ける姿を見てきました。それは美談ではなく、事故や離職につながる危険な状態です。
スタッフは「全員来る」前提で計画を立てない
災害時の計画で最初に見直してほしいのは、参集できる人数の見積もりです。自宅が被災した、家族がけがをした、道路が寸断された、保育園が閉まった。こうした理由で、来られないスタッフは必ず出ます。私の経験では、災害の直後に来られるのは、通常の出勤者よりかなり少ないと考えておく方が現実的です。
だからこそ、「来られた人数で何を優先するか」を決めておく必要があります。通常の業務をすべて続けようとせず、外来を絞る、予定手術を延期する、といった縮小の判断基準を、事前に管理者間で共有しておくことが大切です。
体を守る:交代と休息をルールにする
災害の初期は、誰もが「自分が休むわけにはいかない」と考えます。しかし、休息を個人の判断に任せると、責任感の強い人ほど倒れます。私が勧めるのは、交代と休息を「命令」にすることです。
- 連続勤務の上限時間を決め、超えたら管理者が休ませる
- 仮眠場所と食事を、災害時の運営の一部として確保する
- 家族の安否確認を「勤務中にしてよい業務」として明文化する
特に三つ目は重要です。家族の安否が分からないまま働き続けることは、判断力の低下と強い不安の原因になります。短時間でも連絡を取る時間を保証することで、結果的に現場の安全が高まります。
心を守る:惨事ストレスは「弱さ」ではない
多数の傷病者や亡くなった方に接した後、眠れない、場面が繰り返し浮かぶ、いらだちやすくなる、といった反応が出ることがあります。これは惨事ストレスと呼ばれ、異常な状況に対する正常な反応だとされています。強い人だから平気、という話ではありません。
組織としてできるのは、災害対応の後に短時間でも振り返りの場を持ち、「つらかった」と言える空気をつくることです。個人に相談を促すだけでなく、管理者の側から声をかける、産業医や心理職と連携する、という仕組みにしておくと、声を上げにくい人も救えます。
管理者自身のケアも忘れないでください。判断を下し続ける立場の人は、疲労や不安を表に出しにくく、周囲も気づきにくいものです。私が消防の指揮の現場で学んだのは、指揮者が交代しない組織は、判断の質が時間とともに落ちていくということでした。管理者にも交代の仕組みを用意しておくことが、組織全体を守ることにつながります。
明日からできること
まず、自院の災害計画に「参集できない前提の人数」と「連続勤務の上限」が書かれているかを確認してみてください。書かれていなければ、次の会議の議題はそこです。助ける側の心と体を守ることは、患者を守ることと同じ重さを持つ運営の課題だと私は考えています。
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