障害者施設の避難支援|利用者の特性別に考える「逃げ方」と「留まり方」

障害者施設の避難支援を「一律」から「特性別」へ

「避難訓練をすると、パニックになる利用者がいて、かえって危ない気がする」。障害者施設の管理者の方から、こうした悩みを伺うことがあります。この記事では、障害者施設の避難支援について、利用者の特性ごとに「逃げ方」と「留まり方」を分けて考える方法をお伝えします。

私は救急・レスキューの現場で、避難がうまくいかなかった施設をいくつも見てきました。共通していたのは、「全員を同じ方法で外へ出す」という計画が、利用者の実態に合っていなかったことです。

なぜ「全員一律」の避難が機能しないのか

障害の特性は一人ひとり違います。車いすで階段が使えない方、言葉の指示が伝わりにくい方、大きな音や人混みで強い不安を感じる方、視覚や聴覚に障害があり警報が届かない方。同じ「避難」という言葉でも、必要な支援はまったく異なります。

それを一つの手順にまとめようとすると、誰にとっても中途半端な計画になります。だから私は、利用者を特性で大きく分け、それぞれに合った「逃げ方」と、逃げない方がよい場合の「留まり方」を考えることを勧めています。

特性別に考える逃げ方と留まり方

身体障害のある方は、移動手段の確保が中心です。階段が使えない場合は、日中と夜間で人数が違うことを前提に、水平避難(同じ階の安全区画へ移す)を第一選択とし、担架や搬送用具の場所と使い方を決めておきます。

知的障害や自閉症のある方は、環境の変化そのものが不安の原因になります。避難先を「いつもの散歩コースの先」にする、写真や絵カードで手順を示す、混乱したときに落ち着ける場所を避難先にも用意する、といった工夫が有効です。場合によっては、無理に外へ出すより、施設内の安全な部屋に留まる方が安全なこともあります。

精神障害のある方は、サイレンや騒ぎで症状が悪化することがあります。声をかける職員を決め、服薬の継続を避難計画に組み込むことが大切です。視覚・聴覚障害のある方には、光や振動で知らせる装置、手引きの担当者を決めておきます。

一人ひとりの支援方法を紙にする

特性別の考え方を、最終的には個人ごとの一枚にまとめることをお勧めします。

  • 移動に必要な人数と用具
  • 伝え方(声かけの言葉、絵カード、手引き)
  • 不安が強くなったときの対応と落ち着く方法
  • 服薬や医療的ケアの有無と、持ち出すもの

これは、応援に来た他施設の職員や消防隊員が、その方を初めて見ても支援できるようにするための紙です。受講者からは「作ってみたら、職員の間でも認識がばらばらだったと気づいた」という声をいただきます。

この一枚は、地域の避難所へ移る場面でも役に立ちます。一般の避難所は、障害のある方にとって過ごしにくい環境になりがちです。福祉避難所の利用や、施設内での滞在継続を含めて、「どこへ逃げるか」だけでなく「逃げた先でどう過ごすか」までを、家族や自治体と話し合っておくことをお勧めします。

明日からできる避難支援の見直し

まず、訓練を「一斉に外へ出る」形から、「日常の活動の中に少しずつ混ぜる」形に変えてみてください。散歩のついでに避難先まで歩く、朝の会で絵カードを見せる。それだけで、本番のときの不安を減らせます。障害者施設の避難支援は、特別な日のイベントではなく、日常の延長にあるものだと私は考えています。

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