医療安全と防災に共通するもの
「医療安全の業務で手一杯なのに、防災まで担当することになった」。医療安全管理者の方から、そんな声を伺うことがあります。しかし私は、医療安全と防災は別々の仕事ではなく、根が同じだと考えています。この記事では、両者に共通するリスク管理の考え方と、日常の医療安全の仕組みの延長で災害に備える方法をお伝えします。
消防の世界でも、日常の小さな事故を防ぐ仕組みと、大災害への備えは同じ考え方の上に成り立っています。「小さなヒヤリを拾う組織は、大きな災害にも強い」というのが、私の現場での実感です。
どちらも「起きてから」ではなく「起きる前」の仕事
医療安全の中心は、事故が起きてからの対応ではなく、起きる前に芽を摘むことです。インシデント報告で小さな異変を集め、原因を分析し、仕組みを変える。この流れは、防災でもまったく同じです。地震で薬品棚が倒れる前に固定する、停電で機器が止まる前にバッテリーを把握する。
つまり、医療安全管理者がすでに持っている「リスクを見つけ、分析し、対策する」という技術は、そのまま防災に使えます。新しい能力を身につける必要はなく、視点を一つ広げるだけで済むのです。
日常の仕組みに災害の視点を「一行」足す
私が勧めているのは、防災を別の枠組みとして立ち上げるのではなく、既存の医療安全の仕組みに災害の視点を加えることです。
- インシデント報告:「停電や揺れがあったらどうなっていたか」という欄や視点を加える
- 医療安全ラウンド:点検項目に「キャスターのロック」「棚の固定」「非常電源への接続」を入れる
- ダブルチェックの文化:災害時の判断(留まるか動くか、など)も一人で決めない仕組みにする
この方法の利点は、現場の負担を増やさずに済むことです。「防災訓練の日だけ意識する」状態から、「毎日の点検の中で自然に確認する」状態に変わります。受講者からは「ラウンドの表に三行足しただけで、病棟の景色が変わった」という声をいただきます。
ヒヤリハットの延長線上に災害がある
災害時に起きる事故の多くは、平時のヒヤリハットの延長です。廊下に置かれた機器、ロックされていない車いす、確認されていない非常口の前の荷物。これらは、日常でもつまずきや衝突の原因になり、災害時には避難を妨げる障害物になります。
逆に言えば、日常のヒヤリハットを減らす取り組みは、そのまま災害時の被害を減らすことにつながります。医療安全と防災を切り離して考えると仕事は二倍になりますが、根が同じだと捉えれば、一つの取り組みが両方に効きます。
もう一つ共通しているのは、「報告しやすい空気」が土台になることです。インシデントを責めずに集める文化がある病院は、災害訓練でも「うまくいかなかった」と正直に言えます。逆に、失敗を隠す文化のもとでは、訓練は形だけの成功で終わり、本番で初めて弱点が露わになります。医療安全管理者が日々育てている報告の文化は、そのまま防災の土台でもあるのです。
明日からできる、医療安全と防災をつなぐ一歩
まず、直近のインシデント報告を数件見返して、「これが災害時に起きていたら、どうなっていたか」を想像してみてください。そして、次回のラウンドの点検表に、防災の項目を一行だけ足す。医療安全のリスク管理の延長線上に災害への備えを置くことが、病院の防災を無理なく続ける一番の近道だと私は考えています。
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