引き渡し訓練の見直し|「渡さない判断」を含めた計画に

「毎年の引き渡し訓練は順調だが、本当に災害のときに機能するのか不安だ」。教頭や防災担当の先生から、こうした声を伺います。引き渡し訓練の多くは、保護者が迎えに来て、名簿で確認し、子どもを渡すまでの流れを練習します。しかし私は、過去の災害で「渡したことで危険にさらされた」事例が語られていることを重く受け止めています。この記事では、学校の引き渡し訓練を「渡さない判断」を含めた計画に見直す考え方を整理します。

引き渡し訓練の見直しが必要な理由

引き渡しの目的は、子どもを保護者に返すことではなく、子どもの安全を確保することです。学校が安全で、外が危険なら、学校にとどめる方が正しい。津波警報が出ている沿岸部、河川が氾濫しそうな大雨、余震が続く中で夜道を帰る状況。こうした場面では、保護者が来ても「今は渡さない」と言える計画と訓練が必要です。

私の経験では、この判断を現場の教員個人に委ねると、保護者の強い要望に押されてしまいます。学校としての基準を事前に決め、保護者に周知しておくことが、教員を守り、子どもを守ります。

「渡す・渡さない・待つ」の三つの基準を決める

引き渡し計画は、三つの状態を定義するところから始めます。

  • 渡す:校外の安全が確認でき、保護者と帰宅する方が安全な状態
  • 渡さない:津波警報、大雨や洪水の警戒、周辺の火災など、校外に出ること自体が危険な状態
  • 待つ:状況が不明で、情報を集めてから判断する段階

それぞれの状態を、どの情報をもとに、誰が判断するかを明記します。校長が不在のときの代行順位も決めておきます。判断の根拠を「気象警報の種類」「自治体の避難情報」「学校周辺の目視状況」のように具体的にしておくと、教員が迷わず動けます。

迎えに来られない家庭への備え

引き渡しで見落とされがちなのが、保護者が来られない子どもたちです。交通の途絶、保護者自身の被災、勤務先からの帰宅困難。大きな災害では、相当数の子どもが夜まで、あるいは翌日まで学校に残る前提で考える必要があります。

宿泊を想定した備蓄(水・食料・毛布・簡易トイレ)、アレルギーや服薬の情報の把握、夜間に残る教員の交代、保護者以外に引き渡してよい人の事前登録。これらを計画に含めておきます。特に「保護者以外に渡してよい人」は、名簿に事前に書いてもらい、本人確認の方法まで決めておくことが大切です。

保護者に「渡さないことがある」と伝えておく

渡さない判断は、保護者の理解がなければ現場で衝突を生みます。年度初めの説明会や配布物で、「災害の種類によっては、学校がお子さんをお預かりし続けることがあります」と明言してください。同時に、その理由と、学校からの連絡手段、保護者側の行動(無理に迎えに来ない、連絡を待つ)を具体的に示します。受講者からは「渡さない可能性を伝えたら、かえって保護者から安心したと言われた」という声をいただきます。基準が明確であることは、保護者にとっても安心材料になります。

明日からできること|訓練に「渡さない場面」を一つ入れる

次の引き渡し訓練で、一つだけ「渡さない」場面を組み込んでみてください。例えば、訓練の途中で「津波警報が発表された」という想定を放送し、引き渡しを中断して校舎の上階へ移動する。保護者にも一緒に動いてもらいます。この一回で、教員も保護者も「渡さない判断」を体で理解できます。引き渡し訓練の見直しは、この小さな変更から始められます。

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