透析患者と災害|施設・患者・家族それぞれの備え

透析施設で働く臨床工学技士や看護師、管理者の方から、「災害で水や電気が止まったとき、患者さんの治療をどうつなぐか」という不安をよく聞きます。透析患者と災害の問題は、命に直結する一方で、施設だけでは解決できない要素が多い分野です。この記事では、施設・患者・家族の三つの立場から、発災前に整えておくべき備えを、医学的な判断には踏み込まず、現場の運用の観点で整理します。

透析患者にとって災害が特別に厳しい理由

透析治療は大量の水と安定した電力を必要とし、定期的に受けなければ体調が急速に悪化するとされています。地震で断水すれば、施設の建物が無事でも治療はできません。豪雨で道路が寸断されれば、患者が通えません。私が海外の災害現場で見てきたのは、建物や機器よりも「水・電気・移動」の三つが止まることで、治療が受けられなくなる状況でした。

さらに、透析患者は高齢の方や他の疾患を持つ方が多く、避難所での生活が身体に負担となります。食事や水分の制限があることを周囲が知らず、善意で配られた食べ物が体調を崩す原因になることもあります。

透析施設が備えておくこと

施設側の備えは、大きく「治療を続ける準備」と「治療を他に託す準備」の二つに分かれます。前者では、受水槽の容量と非常用電源で何人分・何回分の治療ができるかを、平時に具体的な数字で把握しておくことが出発点です。給水車の要請先、燃料の補給先も含めて、書面で確認しておきます。

後者は、自施設で治療ができないときに、患者をどの施設へ振り分けるかという計画です。地域の透析施設同士のネットワークや、都道府県の災害時透析の連絡体制に平時から参加し、担当者同士が顔を知っている状態にしておくことが、発災後の調整速度を大きく左右します。患者の透析条件をまとめた情報を、患者自身にも渡しておけば、他施設での受け入れがスムーズになります。

搬送の手段も課題です。多数の患者を他施設へ移す場合、救急車には頼れません。送迎車両、家族の車、自治体の協力など、複数の手段を組み合わせる想定をしておきます。

患者と家族が持っておくべきもの

私は講演で「自分の治療情報を自分で持っていますか」と患者さんに問いかけることがあります。災害時にかかりつけ以外の施設で治療を受けるとき、必要なのは本人の情報です。

  • 透析条件・ドライウェイト・使用薬剤・アレルギーなどを記した情報カード(施設が発行するものが望ましい)
  • かかりつけ施設と、代替候補となる施設の連絡先
  • 数日分の内服薬と、災害時の食事や水分の考え方についての施設からの説明
  • 家族や近隣の支援者との連絡方法と集合場所

家族には、避難所で「透析患者であること」を運営側に早めに伝えるよう話しておいてください。避難所の保健師や救護班は、把握していれば優先的に対応できますが、把握できていない要配慮者を探し出すのは困難です。

発災後の連絡と情報の流れ

発災直後、施設が最初に行うべきは、患者への一斉連絡と、自施設の治療可否の判断です。「今日は治療できる」「明日は別の施設へ」という情報を、電話・メール・施設の掲示・SNSなど複数の経路で出す必要があります。患者側が施設に電話をかけ続けて回線がふさがる状況を避けるため、「発災時はこの方法で情報を出す」と平時に決めて伝えておくことが重要です。

受講者からは「訓練で連絡網を回したら、半分以上に届かなかった」という声もいただきます。届かない前提で、複数経路と、届かなかった患者への確認手順を用意しておきましょう。

透析患者の災害対策として明日やること

施設では、受水槽と非常用電源で可能な治療回数を数字で確認し、地域の連絡体制に担当者の名前を登録する。患者と家族には、情報カードの携帯と、施設からの情報発信の方法を伝える。それぞれの立場でできることを一つずつ進めることが、透析患者と災害に向き合う現実的な一歩です。

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