病院の停電対策で見落とされやすい「順番」
「非常用発電機があるから停電は大丈夫」。病院の停電対策について伺うと、そう答えられる方が少なくありません。しかし、臨床工学技士や薬剤師、看護部の方が本当に知りたいのは、「発電機が動いた上で、それでも止まるものは何か」ではないでしょうか。この記事では、停電時に病院で最初に困るものを順番に整理し、医療機器と薬品を守る備えをお伝えします。
私は救急隊員として、停電した病院からの搬送依頼を受けた経験があります。そこで痛感したのは、停電は「暗くなる」問題ではなく、「治療が途切れる」問題だということです。
発電機が動いても止まるものがある
非常用発電機は、すべてのコンセントに電気を送るわけではありません。多くの病院では、赤や緑で色分けされた非常電源系統のコンセントだけが生きます。問題は、日常の中で機器が「たまたま一般系統のコンセント」につながっていることです。移動したモニターや輸液ポンプ、病棟の冷蔵庫などがその典型です。
また、発電機は燃料が尽きれば止まります。何時間分の燃料があるのか、追加供給の契約はあるのか、実際に負荷をかけた試運転をいつしたのか。これらは設備担当だけでなく、臨床の現場が知っておくべき情報だと私は考えています。
人工呼吸器・透析・薬品、それぞれの弱点
人工呼吸器は内蔵バッテリーで一定時間動きますが、機種ごとに持続時間が違います。病棟に何台あり、それぞれ何分もつのか、一覧になっているでしょうか。手動換気に切り替える判断を誰がするのかも、あらかじめ決めておく必要があります。
透析は電気と水の両方を大量に使います。停電に加えて断水が重なると、院内での継続が難しくなり、他院への搬送や透析日程の変更という判断が必要になります。近隣施設との連携や患者への連絡手段を、平時から確認しておくことが大切です。
薬品については、ワクチンやインスリンなど温度管理が必要なものが冷蔵庫の停止で使えなくなるおそれがあります。冷蔵庫が非常電源につながっているか、保冷剤や温度記録の手順があるかを薬剤部で確認しておくと、被害を小さくできます。
三つの職種で分担する備え
停電対策は一つの部署では完結しません。私がお勧めするのは、次のような役割の分担です。
- 臨床工学技士:機器ごとのバッテリー持続時間と非常電源系統の接続状況を一覧化する
- 薬剤師:要冷蔵薬品の保管場所と停電時の移送・温度記録の手順を決める
- 看護部:病棟ごとに「最初に確認する機器」「手動に切り替える基準」を共有する
一覧をつくると、意外と「誰も正確に知らなかった」項目が見つかります。それが見つかること自体が、備えの前進です。
できれば、この一覧をもとに年に一度は「実際に電源を落とす」訓練を検討してください。設備担当と相談のうえ、一つの病棟だけ、短時間だけでも構いません。机上では動くはずだった機器が実は一般系統につながっていた、という発見は、実際に電源が落ちたときにしか得られません。受講者からは「初めて電源を落として、本当に止まるものが分かった」という声をいただきます。
明日からできる病院の停電対策
まず、自分の病棟で非常電源のコンセントに何がつながっているか、実際に歩いて確認してみてください。そして、人工呼吸器のバッテリー持続時間を機器のラベルに書いて貼る。この二つだけでも、停電の夜に現場が迷う時間を大きく減らせます。
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