「海外拠点に社員を送り出すが、テロや誘拐への備えは保険加入と注意喚起メールだけ」。海外拠点を持つ企業の総務・人事の方から、こうした状況を伺うことがあります。赴任者本人も、不安はあるが何を準備すればよいのか分からないまま出発しているのが実情です。
この記事では、海外赴任者のテロ・誘拐対策として、出発前に企業が整えておくべき研修と体制を、私が34カ国の現場で活動してきた経験から整理します。
海外赴任者のテロ・誘拐対策は「本人任せ」にできない
海外の治安リスクは、赴任者個人の注意力だけでは防ぎきれません。狙う側は、行動が規則的で警戒が薄い外国人を時間をかけて観察しています。本人が気をつけていても、通勤経路や勤務時間が固定されていれば、それ自体がリスクになります。
だからこそ、企業側が「どの国・都市で、どのようなリスクがあり、会社として何を決めているか」を示す必要があります。安全配慮の観点からも、注意喚起だけで終わらせない準備が求められる時代とされています。
出発前研修で必ず扱う三つの内容
私が海外赴任者向けの研修で重視しているのは、知識よりも行動習慣です。具体的には次の三つです。
- 狙われにくくする習慣:通勤の時間と経路を変える、目立つ服装や振る舞いを避ける、行き先を周囲に話しすぎない
- 異変に気づく感覚:同じ車や人物を複数回見かけたら記録する、「何かおかしい」を無視しない
- 巻き込まれたときの初動:爆発音や銃声を聞いたら伏せて離れる、誘拐時は抵抗より生存を優先する
三つ目は口にしにくいテーマですが、事前に一度でも考えておくと、極限状態で体が動きます。受講者からは「怖がらせる内容ではなく、日常の習慣として続けられる内容だった」という声をいただきます。
連絡ルールと「無事の確認」の仕組み
事案が起きたとき、本社が最初に直面するのは「誰がどこにいるか分からない」という問題です。定時連絡、移動時の事前申告、緊急時の連絡順位を決め、実際に一度試しておく必要があります。
ここで見落とされがちなのが、赴任者の家族への連絡です。本人の安否が不明な時間帯に、家族が報道で先に知る事態は避けなければなりません。誰が、どの段階で、何を家族に伝えるかを決めておくことは、赴任者が安心して出発できる条件でもあります。
本社側の初動を決めておく
誘拐や拘束といった事案では、本社が「交渉するのか」「誰に相談するのか」「情報を社内外にどう扱うのか」を、極めて短時間で決めることになります。専門機関との連携を含め、平時に方針を持っていない企業は、初動で時間を失います。
私が現場で見てきた限り、最初の数時間の対応が、その後の経過を大きく左右します。経営層を含めた図上訓練を一度でも実施しておくと、本番での迷いは格段に減ります。
海外赴任者の安全のために明日できること
まず、現在赴任中の社員の「今週の主な移動予定」を本社が把握しているか確認してみてください。把握できていなければ、連絡ルールづくりが最初の一歩です。海外赴任者のテロ・誘拐対策は、特別な装備より、日常の習慣と連絡の仕組み、そして本社の初動方針で大部分が決まります。
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