「足場の上で大きな揺れが来たら、正直どうしていいかわからない」。鳶や屋根、外装工事の職人さんから、率直にそんな声を聞くことがあります。高所作業中の地震対策は、地上の避難とはまったく別の考え方が必要です。この記事では、揺れの瞬間の身の守り方、宙づりになったときの脱出の考え方、そして日々の命綱の点検について、元レスキュー隊員の立場からお伝えします。
高所作業中の地震で何が起きるか
地上では「机の下に隠れる」「広い場所に出る」といった行動が基本ですが、足場の上ではどちらもできません。揺れで足場が振られ、資材が落下し、体勢を崩して墜落する危険が一気に高まります。私が救助の現場で見てきたのは、揺れそのもので墜落するケースよりも、「慌てて降りようとした」「隣の人を助けようと手を離した」ことで事故につながったケースでした。高所での地震対策の第一歩は、揺れの間に「動かない」と決めておくことです。
揺れの瞬間にやること、やらないこと
揺れを感じたら、まず両手で足場の支柱や手すりをつかみ、腰を低くして体を固定します。フルハーネスのフックが掛かっていることを確認し、掛かっていなければ一番近い親綱や支柱に掛けます。やらないことは、揺れの最中に昇降設備へ移動すること、そして上を見ずに動くことです。落下物は頭上から来ます。揺れが収まるまでは、その場で身を固め、揺れが収まってから周囲の状況を見て降りる判断をしてください。
宙づりになったときの脱出の考え方
ハーネスが命を守った後、次に問題になるのが宙づり状態です。腰や太ももを締め付けられたまま長時間ぶら下がると、体に負担がかかり、意識に影響が出ることがあるとされています。だからこそ、宙づりになったら「じっと待つ」だけでは危険な場合があります。自分でできることは三つです。一つ目は、足を動かしたり、足場や壁に足をかけたりして下半身に力をかけ続けること。二つ目は、大声で自分の位置を周囲に知らせること。三つ目は、可能であればロープや足場に体重を分散させて締め付けを減らすことです。そして周囲の人は、無理に引き上げようとせず、まず自分の足場を確保して救助を呼ぶこと。救助隊が到着するまでの間、声をかけ続けるだけでも状態は大きく変わります。
命綱の点検は「毎朝、自分の手で」
宙づりからの脱出以前に、命綱が機能するかどうかがすべてを決めます。私の経験では、装備の不具合は「誰かが点検してくれているはず」という思い込みの中で起きます。点検は始業前に自分の手で、ベルトのほつれ、フックの開閉、ランヤードのねじれや傷を確認してください。一度でも墜落を止めたハーネスは、見た目に問題がなくても使い続けないのが原則です。受講者からは「毎朝の点検が儀式になっていたことに気づいた」という声をいただきます。点検は形式ではなく、自分の命の値段を確かめる時間です。
明日からできる高所作業の地震対策
まず、明日の朝礼で「揺れたらその場で固まる」「収まってから降りる」の二つを全員で口に出して確認してください。次に、自分の作業位置から一番近い「つかまる場所」と「フックを掛け直せる場所」を実際に手で触って確かめます。そして、宙づりになった仲間を見つけたときの手順を、職長を中心に一度だけ話し合っておいてください。高所での地震は、揺れの数秒間に何を決めていたかで結果が変わります。
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