企業や自治体の研修担当の方から、「災害を経験した社員や職員が、なかなか元に戻れない」「レジリエンスの研修をしたいが、精神論になりそうで不安だ」という相談をいただきます。災害から立ち直る力は、生まれつきの強さではなく、いくつかの条件によって支えられているものです。この記事では、個人と組織のレジリエンスについて、私が災害現場で見てきたことをもとに整理します。
レジリエンスとは「折れない」ことではない
レジリエンスという言葉は、「折れない心」「強い精神」と受け取られがちです。しかし私が34カ国の災害現場で見てきたのは、折れないのではなく、折れても戻ってくる人たちの姿でした。大切な人を失い、家を失い、それでも時間をかけて日常を取り戻していく。その過程には、泣くことも、立ち止まることも含まれています。
だから、レジリエンスを「弱さを見せない」ことだと誤解すると、かえって立ち直りを遅らせます。つらいと言える、助けを求められる、休むことを認められる。こうした環境が、立ち直る力の土台になります。研修で最初に伝えるべきことは、この点だと私は考えています。
現場で見てきた立ち直る人の共通点
私の経験では、立ち直りが早い人にはいくつかの共通点がありました。一つは、自分で決められる小さなことを持っていることです。避難所で自分の寝る場所を整える、朝の掃除を担当する、誰かの手伝いをする。小さくても「自分で選んで動く」ことが、無力感を和らげます。
二つ目は、つながりです。家族、友人、同僚、地域の人。誰かと話せる、誰かに必要とされる、という感覚が、立ち直りを支えます。三つ目は、意味づけです。「この経験を次に活かす」「同じ思いをする人を減らす」という方向が見えたとき、人は前に進み始めます。私自身、消防で経験した現場の重さを、防災教育という形に変えてきたことで、今も活動を続けられていると感じています。
個人のレジリエンスを支える3つの要素
研修で伝えている個人の要素を、三つにまとめます。
- 身体:睡眠、食事、身体を動かすこと。心は身体の上に立っています
- つながり:話せる相手を平時から持っておくこと。災害後に急に作ることは難しい
- 見通し:次に何が起きるか、自分は何をすればいいかが分かること
このうち「見通し」は、防災教育と深く関わります。災害で何が起きるかを知っている人は、起きたことに圧倒されにくく、自分の役割を見つけやすい。備えることは、立ち直る力を事前に育てることでもあります。
組織のレジリエンス:一人に背負わせない
組織のレジリエンスで最も重要なのは、負担を一人に集中させないことです。災害対応では、責任感の強い人ほど休まず働き続け、数週間後に倒れます。私が消防や自治体で伝えているのは、交代の仕組みを平時から作ること、「休むことは職務である」と管理者が言葉にすること、そして対応が一段落した後に振り返りの場を持つことです。
振り返りは、責任追及の場にしてはいけません。何が起きたか、何がつらかったか、何がうまくいったかを、安心して話せる場が、次の災害への備えと、職員の回復の両方につながります。組織として「あのときはよくやった」と認めることが、立ち直りの大きな支えになります。
明日からできること
研修担当の方に勧めているのは、まず管理職向けに「部下の変化に気づく」内容から始めることです。眠れていない、口数が減った、ミスが増えた、といったサインに気づき、声をかけ、必要なら専門家につなぐ。この最初の一歩ができる組織は、災害後の離職や長期の不調を減らせると感じています。受講者からは「強くなれと言わなくていいと分かって楽になった」という声をいただきます。レジリエンスは、個人の努力ではなく、周囲との関係の中で育つものです。
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