「消防職員向けの研修に、どんな講師を呼べばいいのか」。教養担当の方が毎年頭を悩ませる問題です。この記事では、消防本部の研修講師に元消防士を選ぶ意味について、これまでにいただいた消防機関の受講者の声をもとに、何が響き、何が変わるのかを整理します。私自身が元消防士であるため手前味噌にはなりますが、講師選びの判断材料として率直に書きます。
消防の研修講師を選ぶ時に起きる「聞き流し」
消防職員は、講義を聞き慣れています。法令、安全管理、ハラスメント、メンタルヘルス。毎年のように研修があり、内容も概ね知っています。そのため、講師が現場を知らないと感じた瞬間、聞くのをやめてしまいます。「現場ではそうはいかない」という一言が心の中で出た時点で、その研修は終わりです。教養担当の方が最も避けたいのは、この「聞き流し」でしょう。
元消防士の講師が持つ三つの強み
ひとつ目は、現場の言葉で話せることです。出動、当直、無線、残圧、撤退。同じ言葉を同じ重さで使える講師の話は、翻訳なしで届きます。受講者が「この人は分かっている」と感じるまでの時間が短いほど、本題に使える時間が長くなります。
ふたつ目は、失敗を語れることです。私は福岡市消防局でレスキュー隊員、救急隊員、消防士として勤務し、米国では救急隊員として活動しました。その中で、自分が危うく命を落としかけた場面や、判断を誤った経験があります。成功談より失敗談のほうが、受講者は自分の現場に重ねやすいと感じています。
三つ目は、組織の内側を知っていることです。上下関係、当直の閉鎖性、指導とハラスメントの境界。外部の専門家が理屈で説明することを、「自分もそうだった」という立場から話せます。
受講者の声から見えた「変わる瞬間」
消防機関の受講者からいただいた感想を読み返すと、共通する言葉があります。「自分の隊に置き換えて考えられた」「明日の訓練で試したいことが具体的に浮かんだ」「講師の失敗談を聞いて、自分も部下に失敗を語ろうと思った」。一方で、「もっと厳しい話を期待していた」という声もあり、精神論を求める受講者には物足りなく感じられることもあります。私は、恐怖や根性ではなく、判断の手順と組織の仕組みに焦点を当てることを選んでいますので、その点は事前にご確認いただければと思います。
元消防士であれば誰でもよいわけではない
元消防士という肩書きだけで選ぶことは、お勧めしません。確認していただきたいのは、退職後も学び続けているか、他の組織や国の消防を知っているか、そして「昔はこうだった」で終わらず、今の消防の課題に言葉を持っているかです。現場経験は入口であって、研修の価値は「その経験を、今の受講者の課題にどう結びつけるか」で決まります。可能であれば、依頼前に講師と直接話し、自本部の課題を伝えた上で、どんな構成にするかを聞いてみてください。その返答に具体性があるかどうかで、研修の質はほぼ見当がつきます。
教養担当が明日からできること
研修を依頼する前に、今年の研修で「受講者に何を持ち帰らせたいか」を一文で書いてみてください。それが「意識を高める」であれば、講師選びは難しくなります。「退避条件を訓練で宣言するようになる」「若手との面談を始める」のように行動で書ければ、講師に求めるものも明確になります。元消防士の講師を選ぶ意味は、その行動を、現場の言葉で具体的に示せることにあると私は考えています。
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