「『おはしも』を教えても、子どもは言葉は言えるのに、訓練になると走ってしまう」「怖がって泣く子がいて、どう教えればいいか分からない」。幼稚園教諭の先生から、こうした相談をいただきます。この記事では、幼稚園で「おはしも」を幼児が怖がらずに体で覚える防災の教え方をお伝えします。
幼稚園の「おはしも」がなぜ言葉だけで終わるのか
「おさない・はしらない・しゃべらない・もどらない」。この標語は覚えやすく、多くの園で使われています。ただ、幼児にとって「おはしも」は音の並びであって、意味とはつながっていないことが多いのです。「おさない」と言えても、なぜ押してはいけないのかを体で分かっていなければ、避難のときに前の子を押します。
私が園を訪問して感じるのは、標語の暗唱と動作の練習が別々に行われていることです。言葉と体を同時に結びつけない限り、標語は行動になりません。
四つの言葉を「体の遊び」に変える
私がおすすめしているのは、四つの言葉それぞれに対応する遊びを用意することです。
- おさない:手をつないだまま歩く「電車ごっこ」。前の子を押すと電車が壊れる、というルールにします。
- はしらない:「忍者歩き」。足音を立てずに速く歩く競争にすると、走らずに急ぐ感覚が身につきます。
- しゃべらない:「先生の声を聞くゲーム」。口を閉じているときだけ先生の小さな声が聞こえる、という体験をさせます。
- もどらない:「宝物は置いていく」遊び。おもちゃを部屋に置いたまま園庭へ行き、後で取りに戻る約束をします。
それぞれの遊びを日常の保育に入れておくと、訓練のときに「電車ごっこで行くよ」「忍者歩きだよ」と声をかけるだけで、子どもは動きを思い出します。
怖がらせない三つの工夫
幼児が避難訓練で泣いてしまう原因の多くは、突然の大きな音と、先生の緊張した声です。私が先生方にお伝えしている工夫は三つあります。
一つ目は、訓練の前に「今日は避難の練習をするよ」と予告すること。幼児は見通しがあると安心します。二つ目は、放送や警報音を、遊びの中で小さな音から慣らしておくこと。三つ目は、先生自身が笑顔で「上手にできたね」を多く言うこと。訓練が終わった後の先生の表情を、子どもはよく見ています。
受講者の先生からは「怖がらせないと真剣にならないと思い込んでいたが、楽しく練習したほうが本番で動けると分かった」という感想をいただきます。
「もどらない」は先生にも当てはまる
四つの中で私が最も重視しているのが「もどらない」です。これは子どもだけでなく、先生自身にも当てはまります。忘れ物を取りに戻る、子どもの名前が一人分からず教室へ戻る。私が消防の現場で見てきた中で、戻ったことで危険に遭う例は少なくありません。
先生が戻らないためには、点呼の仕組みを園庭で完結させること、教室に残る子がいないかを出るときに確認する担当を決めることが必要です。「もどらない」は、子どもへの教えである前に、園の仕組みの問題です。
明日からできる「おはしも」の教え方
まず、四つの言葉のうち一つだけ、遊びに変えてみてください。おすすめは「忍者歩き」です。準備がいらず、子どもが喜び、翌日から廊下の歩き方が変わります。四つすべてを一度に教えようとせず、一か月に一つずつ体に入れていく。そのペースで十分です。幼児の防災教育は、言葉を覚えさせることではなく、体が自然に動くようにすることです。
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