消防学校の教官や、新任隊員を受け入れる署の指導担当の方から「教えることが多すぎて、現場で最初に何を覚えさせるべきか絞れない」という相談を受けます。私は福岡市消防局でレスキュー隊員・救急隊員・消防士として現場に立ち、その後に米国ニューヨーク州でも救急隊員として働きました。新人消防士が現場で最初に覚えるべきことは、技術より先に、自分と仲間を守るための基本動作です。ここでは、私が教官として伝えたい5つの基本を整理します。
新人消防士が現場で最初に覚えるべき5つの基本
私が新任隊員に最初に叩き込みたいのは次の5つです。
- 指揮者の指示を復唱し、勝手に動かない
- 常に自分の退路と、隊員同士の位置を把握する
- 危険を感じたら、階級に関係なく声に出す
- 装備の点検を「儀式」にせず、毎回本気でやる
- 現場で見たこと・聞いたことを、帰署後に必ず言葉にする
技術は後からいくらでも身につきます。しかし、この5つが身についていない隊員は、技術が上がるほど危険になります。
「復唱」と「退路」が命を守る
新人が最も起こしやすいのは、役に立ちたい気持ちから指示を待たずに動くことです。私自身、若い頃に先輩から「お前が勝手に動くと、俺たちがお前を探しに行かなければならなくなる」と言われたことがあります。指示の復唱は、聞き間違いを防ぐだけでなく、自分が今何をすべきかを整理する時間になります。同時に、建物に入るときは「どこから出るか」を常に頭に置く。煙で視界がなくなったとき、退路を意識していた隊員とそうでない隊員では、生還率がまったく違うと私は感じています。
「声に出す」文化は指導側がつくる
危険を感じたときに声を出せるかどうかは、新人の性格ではなく、上司や先輩がそれを許す雰囲気を作っているかで決まります。新人の「これ、危なくないですか」を「黙ってやれ」で返す組織では、いずれ声が出なくなります。米国の救急現場では、経験の浅い隊員が安全上の懸念を口にすることが当然のこととして扱われていました。教官や指導担当には、新人が声を出したときに「よく言った」と応じる練習を、訓練の中に意図的に組み込んでほしいと思います。
装備点検と振り返りを習慣にする
毎朝の装備点検は、慣れると手が勝手に動く作業になります。しかし、空気呼吸器の残圧やホースの状態は、現場で自分の命に直結します。「今日この装備で自分は現場に入る」という意識で点検する習慣を、最初の1年で確実に身につけさせたいところです。そして、現場から帰ったら、何を見て、何を感じ、何がわからなかったかを言葉にする時間を持つ。これは技術の習得だけでなく、悲惨な現場を経験した後の心の整理にもつながります。私の経験では、話す習慣のある隊員のほうが、長く現場を続けられます。
教官・指導担当が明日からできること
まず、この5つの基本を新人と一緒に読み上げ、なぜ必要かを自分の言葉で説明する。次に、訓練の中で新人が危険を指摘する場面を意図的に作り、それを評価する。そして、出動後の短い振り返りを日課にする。基本動作は教え込むものではなく、組織の習慣として新人が自然に身につけるものだと思います。
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