山岳トンネルやシールド工事、地下鉄や共同溝の現場を預かる土木の所長・職長の方から、「地震や火災のとき、坑内の作業員をどう避難させるか」という相談をいただきます。閉所では出口が限られ、煙・粉じん・湧水・停電が同時に起こります。この記事では、トンネル・地下工事の災害避難について、発生直後の数分間に何を決めておくべきかを整理します。
閉所の災害で起きること
私が消防のレスキュー隊で経験した地下や閉所の現場に共通していたのは、「地上では当たり前のことが使えない」という点です。出口が一方向しかない、無線が届かない、照明が落ちると完全な暗闇になる、換気が止まると煙や粉じんが滞留する、湧水で足元が見えなくなる。こうした条件が重なると、避難の速度は地上の何倍も遅くなります。
とくに坑内火災は、煙が坑道に沿って一気に広がる性質があります。避難のための時間は、火の大きさではなく煙の流れで決まると考えてください。切羽に近い作業員ほど坑口から遠く、避難距離が長くなるため、火災の位置によっては退避方向が「坑口側」ではなく「切羽側の避難坑や救護所」になることもあります。
避難の判断は「誰が」「どの合図で」
閉所の避難で最も時間を失うのは、「誰が避難を決めるのか」が曖昧なときです。坑内にいる責任者が判断して合図を出すのか、坑外の所長が無線で指示するのか、通信が切れたときはどうするのか。私の経験では、通信が途絶した状況こそ最初に想定しておくべき場面です。「無線が使えないときは、坑内の最上位者が判断して退避を開始する」と決めておくだけで、迷いによる遅れを減らせます。
合図も一種類ではなく、サイレン、回転灯、声、それぞれの意味を決めておきます。粉じんや騒音で音が届かないことを前提に、視覚と聴覚の両方を用意しておくことが必要です。
坑内火災:煙の流れと退避方向
坑内で火災が発生した場合、煙は換気の風向きに沿って流れます。避難は基本的に風上、すなわち新鮮な空気が来る方向へ向かうことになりますが、火点の位置によっては風上が切羽側になることがあります。この場合、避難坑や救護所、酸素供給のある場所へ向かい、そこで救助を待つ判断が必要です。
そのために、坑内の全員が「今いる場所から最も近い退避場所」を常に把握している状態を作ります。掘進が進めば距離は変わりますから、朝礼や工程会議のたびに最新の位置を確認する習慣を持ってください。
地震のとき、坑内は逃げ出すべきか
トンネルの内部は地上より揺れが小さいとされています。ただし坑口付近は、斜面崩壊や落石、盛土の変状が起こりやすい場所です。沿岸や海底のトンネルでは津波も考慮しなければなりません。揺れの最中に走って坑口へ向かうより、まず揺れが収まるまでその場で身を守り、坑口や周辺の安全が確認できてから退避する、という順番が基本になります。
ここで重要なのは、坑外の所長や安全担当が、坑口周辺の状況を素早く確認して坑内に伝える体制です。坑内の作業員は外の状況が分かりません。「出てよいのか、留まるべきか」を外から伝えられるかどうかが、避難の質を左右します。
明日からできる準備
- 坑内の全員が、現在地から最寄りの退避場所までの距離と所要時間を言えるか
- 通信途絶時に誰が避難を決めるかが決まっているか
- 坑口での点呼方法と、行方不明者が出たときの報告先が明確か
安全大会で土木の方に話をすると、「避難訓練は坑口まで歩いて終わりだった」という声をよく聞きます。暗闇で、煙を想定して、合図なしで始めてみると、今の計画のどこに穴があるかが見えてきます。
関連サービス
日本防災教育訓練センターでは、土木・建設業の安全大会向けに、閉所や高所での災害対応をテーマにした安全大会講演を行っています。講演・研修のご相談はお問い合わせフォームからお願いいたします。