発災後の72時間を左右する「カード1枚」

計画書は、揺れている最中には開かれない

多くの組織にBCP(事業継続計画)があります。しかし、強い揺れの直後に分厚い計画書を開き、自分の役割のページを探して読む人はほとんどいません。

停電で暗い部屋、鳴り続ける電話、けが人の声。そうした状況で人が頼れるのは、事前に体に入っている行動と、手元にある短い指示だけです。

計画書は「組織として何を守るか」を決める文書です。発災直後に必要なのは、それを「いま、自分が何をするか」に置き換えたものです。その役目を担うのがアクションカードです。

なぜ「役割ごとに1枚」なのか

災害時の混乱の多くは、知識の不足ではなく、役割のあいまいさから生まれます。「誰かが通報しただろう」「安否確認は総務がやるはず」という思い込みが、初動の空白をつくります。

アクションカードは、この空白を埋めるための道具です。役割を1枚に限ることで、次の三つが実現します。

  • 受け取った人が、自分の責任の範囲をすぐに理解できる
  • 担当者が不在でも、カードを渡すだけで代わりの人が動ける
  • 誰がどのカードを持っているかで、本部が抜けている役割に気づける

特に二つ目が重要です。災害は、担当者が出張中の日にも、夜間にも起きます。カードは「人」ではなく「役割」に付いているので、その場にいる人に手渡せば機能します。

使えるカードに必要な5つの条件

カードは短ければよいわけではありません。現場で使えるカードには、次の5つがそろっています。

条件書くことよくある失敗
発動基準がある「震度5強以上」「津波警報」など、カードを使い始める合図「大規模災害時」とだけ書き、誰も動き出さない
代行者が決まっている担当者が不在のときに引き継ぐ人担当者の名前だけで、夜間・休日に機能しない
時間で区切られている発災直後、3時間、24時間、72時間など行動が一列に並び、何から始めるか分からない
一文が一つの行動「〜を確認する」「〜へ連絡する」と動詞で終える「適切に対応する」など判断を丸投げしている
記録欄がある完了の✓と実施時刻後から何をいつしたか分からず、引き継げない

もう一つ大切なのは、判断の原則を一行で添えることです。たとえば「迷ったら、人命、二次災害の防止、重要業務の順で決める」。手順に書いていない事態が起きたとき、この一行が判断の支えになります。

業種が違っても、最初の30分は同じ

工場、学校、病院、市役所、発電所。守るものは違っても、発災直後の30分にすることはほぼ共通しています。

  1. 自分と周りの人の安全を確保する
  2. 火・ガス・電気を止め、二次災害を防ぐ
  3. 人数を数え、けが人と閉じ込めの有無を確かめる
  4. 本部を立ち上げ、その場所を全員に伝える
  5. 外部への連絡窓口を一つにする

業種ごとの違いが表れるのは、その後です。病院なら入院患者と生命維持装置、学校なら児童生徒の引き渡し、鉄道なら駅と駅の間で止まった列車の乗客、自治体なら避難情報の発令。守るべき人と業務がはっきりしてくる3時間後以降に、カードの中身が分かれていきます。

この順番を知っておくと、カードづくりも楽になります。最初の30分は共通の型を使い、自分の組織に固有の行動は3時間以降の欄に書き足せばよいのです。

作ったカードは、訓練で「壊して」直す

カードは作った時点では仮説にすぎません。訓練でカードを配り、その通りに動いてみると、必ずどこかで止まります。

  • 書いてある電話番号がつながらない
  • 集合場所が、実は落下物の危険がある場所だった
  • 同じ人が二枚のカードを持っていて、手が回らない
  • 代行者が、カードの存在を知らなかった

こうした「止まった場所」こそが、訓練の一番の成果です。訓練の後すぐに書き直し、版の番号と改訂日を更新してください。人事異動の時期にも、担当者と代行者の欄を見直す必要があります。

印刷したカードは、担当者の机、ヘルメット、防災バッグなど、取り出せる場所に置きます。ラミネートしておけば、雨や汚れにも耐えます。

今日、1枚目をつくる

完璧なカード一式を最初から目指す必要はありません。まずは本部長のカードを1枚つくり、次の訓練で使ってみてください。それだけで、初動は確実に変わります。

そのための道具として、無料のツール「BCPアクションカード工房」(actioncard.jp)を公開しました。業種や施設を選ぶと、本部長・安否確認・避難誘導などのカード一式が見本として入ります。見本は、企業の全業種、学校、病院、福祉施設、自治体、消防、警察、議会、国の省庁、発電所や鉄道などのインフラ事業者まで74種類です。

内容を自分の組織に合わせて書き換え、A4またはA5のPDFで出力できます。会員登録は不要で、入力した内容はサーバーに送られず、ページを閉じると消えます。

あわせて、自分の組織の防災判断力を確かめる「企業防災担当者検定」、自宅や出張先の災害リスクを調べる「わが家のハザードカルテ」もご活用ください。

災害は、準備が整うのを待ってはくれません。カード1枚から始めましょう。

一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事 サニー カミヤ

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