
計画書は、揺れている最中には開かれない
多くの組織にBCP(事業継続計画)があります。しかし、強い揺れの直後に分厚い計画書を開き、自分の役割のページを探して読む人はほとんどいません。
停電で暗い部屋、鳴り続ける電話、けが人の声。そうした状況で人が頼れるのは、事前に体に入っている行動と、手元にある短い指示だけです。
計画書は「組織として何を守るか」を決める文書です。発災直後に必要なのは、それを「いま、自分が何をするか」に置き換えたものです。その役目を担うのがアクションカードです。
なぜ「役割ごとに1枚」なのか
災害時の混乱の多くは、知識の不足ではなく、役割のあいまいさから生まれます。「誰かが通報しただろう」「安否確認は総務がやるはず」という思い込みが、初動の空白をつくります。
アクションカードは、この空白を埋めるための道具です。役割を1枚に限ることで、次の三つが実現します。
- 受け取った人が、自分の責任の範囲をすぐに理解できる
- 担当者が不在でも、カードを渡すだけで代わりの人が動ける
- 誰がどのカードを持っているかで、本部が抜けている役割に気づける
特に二つ目が重要です。災害は、担当者が出張中の日にも、夜間にも起きます。カードは「人」ではなく「役割」に付いているので、その場にいる人に手渡せば機能します。
使えるカードに必要な5つの条件
カードは短ければよいわけではありません。現場で使えるカードには、次の5つがそろっています。
| 条件 | 書くこと | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 発動基準がある | 「震度5強以上」「津波警報」など、カードを使い始める合図 | 「大規模災害時」とだけ書き、誰も動き出さない |
| 代行者が決まっている | 担当者が不在のときに引き継ぐ人 | 担当者の名前だけで、夜間・休日に機能しない |
| 時間で区切られている | 発災直後、3時間、24時間、72時間など | 行動が一列に並び、何から始めるか分からない |
| 一文が一つの行動 | 「〜を確認する」「〜へ連絡する」と動詞で終える | 「適切に対応する」など判断を丸投げしている |
| 記録欄がある | 完了の✓と実施時刻 | 後から何をいつしたか分からず、引き継げない |
もう一つ大切なのは、判断の原則を一行で添えることです。たとえば「迷ったら、人命、二次災害の防止、重要業務の順で決める」。手順に書いていない事態が起きたとき、この一行が判断の支えになります。
業種が違っても、最初の30分は同じ
工場、学校、病院、市役所、発電所。守るものは違っても、発災直後の30分にすることはほぼ共通しています。
- 自分と周りの人の安全を確保する
- 火・ガス・電気を止め、二次災害を防ぐ
- 人数を数え、けが人と閉じ込めの有無を確かめる
- 本部を立ち上げ、その場所を全員に伝える
- 外部への連絡窓口を一つにする
業種ごとの違いが表れるのは、その後です。病院なら入院患者と生命維持装置、学校なら児童生徒の引き渡し、鉄道なら駅と駅の間で止まった列車の乗客、自治体なら避難情報の発令。守るべき人と業務がはっきりしてくる3時間後以降に、カードの中身が分かれていきます。
この順番を知っておくと、カードづくりも楽になります。最初の30分は共通の型を使い、自分の組織に固有の行動は3時間以降の欄に書き足せばよいのです。
作ったカードは、訓練で「壊して」直す
カードは作った時点では仮説にすぎません。訓練でカードを配り、その通りに動いてみると、必ずどこかで止まります。
- 書いてある電話番号がつながらない
- 集合場所が、実は落下物の危険がある場所だった
- 同じ人が二枚のカードを持っていて、手が回らない
- 代行者が、カードの存在を知らなかった
こうした「止まった場所」こそが、訓練の一番の成果です。訓練の後すぐに書き直し、版の番号と改訂日を更新してください。人事異動の時期にも、担当者と代行者の欄を見直す必要があります。
印刷したカードは、担当者の机、ヘルメット、防災バッグなど、取り出せる場所に置きます。ラミネートしておけば、雨や汚れにも耐えます。
今日、1枚目をつくる
完璧なカード一式を最初から目指す必要はありません。まずは本部長のカードを1枚つくり、次の訓練で使ってみてください。それだけで、初動は確実に変わります。
そのための道具として、無料のツール「BCPアクションカード工房」(actioncard.jp)を公開しました。業種や施設を選ぶと、本部長・安否確認・避難誘導などのカード一式が見本として入ります。見本は、企業の全業種、学校、病院、福祉施設、自治体、消防、警察、議会、国の省庁、発電所や鉄道などのインフラ事業者まで74種類です。
内容を自分の組織に合わせて書き換え、A4またはA5のPDFで出力できます。会員登録は不要で、入力した内容はサーバーに送られず、ページを閉じると消えます。
あわせて、自分の組織の防災判断力を確かめる「企業防災担当者検定」、自宅や出張先の災害リスクを調べる「わが家のハザードカルテ」もご活用ください。
災害は、準備が整うのを待ってはくれません。カード1枚から始めましょう。
一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事 サニー カミヤ