消防の不祥事はなぜ繰り返されるのか|「気の緩み」を組織で防ぐ仕組み

「綱紀粛正の通達を出したのに、また同じような不祥事が起きた」。消防長や署長の方から伺う、最も重い悩みのひとつです。この記事では、消防の不祥事がなぜ繰り返されるのかを組織の構造から考え、精神論ではなく仕組みで予防する方法を、元消防士の視点で整理します。

消防の不祥事予防が「通達」で終わってしまう理由

飲酒運転、金銭の問題、ハラスメント、情報の持ち出し。報道される消防の不祥事は、種類こそ違っても、その後の対応はよく似ています。全職員への通達、幹部会議での訓示、研修の実施。私も職員時代に何度も同じ流れを経験しました。しかし、その場では「気をつけよう」と思っても、数か月後には日常に戻ります。不祥事は個人の「気の緩み」として処理され、組織側の要因が検討されないまま終わるからです。

不祥事が起きやすい消防組織の構造

私が考える構造的な要因は三つあります。第一に、当直勤務による閉鎖性です。二十四時間を同じ顔ぶれで過ごし、外部の目がほとんど入りません。第二に、上下関係の強さです。上司の行為に疑問を持っても、指摘すれば自分の立場が危うくなります。第三に、地域での立場です。消防職員は「頼られる存在」であり、その信頼が、自分は大丈夫だという過信につながることがあります。

これらは消防という仕事の性質から生まれるもので、なくすことはできません。だからこそ、性質を前提にした仕組みが必要です。「職員の意識が低いから」で片づけると、同じ性質を持つ次の世代で、同じことが繰り返されます。

「気の緩み」を仕組みで防ぐ三つの方法

ひとつ目は、小さな違和感を吸い上げる経路を複数持つことです。直属の上司以外に、本部の担当者や外部の窓口へ匿名で伝えられる仕組みを用意し、実際に使われた実績を職員に示します。使われていない窓口は、存在しないのと同じです。

ふたつ目は、「グレーな行為」を職員自身に洗い出してもらうことです。私の経験では、不祥事の多くは、ある日突然起きるのではなく、以前から「まあいいか」で見過ごされていた小さな行為の延長線上にあります。署ごとに「うちで当たり前になっているが、外から見たらどう見えるか」を話し合う時間を持つと、驚くほど具体的な項目が出てきます。

三つ目は、幹部が自分の行動を先に開示することです。幹部が会計や交際の透明性を自ら示している組織では、職員も同じ基準で動きます。逆に、幹部だけが例外の組織では、通達は誰にも届きません。

不祥事の後の対応が次の不祥事を決める

起きてしまった後の対応も予防の一部です。処分と再発防止策の説明が、当事者への非難だけで終わると、職員は「見つからなければよい」と学習します。「なぜこの組織で起きたのか」「どの仕組みが機能しなかったのか」を幹部が自分の言葉で説明することで、初めて職員は自分ごととして受け止めます。

消防長・署長が明日からできること

まず、自分の署で最近「まあいいか」で済ませた出来事をひとつ書き出してみてください。それが、次の不祥事の種である可能性があります。次に、次回の幹部会議で、通達の読み上げではなく、「うちの組織で起きるとしたらどの分野か」を議論する時間を十分だけ設けてください。受講者からは「精神論ではなく、組織の構造として説明されたことで、初めて自分の署の弱点が見えた」という声をいただきます。消防の不祥事予防は、職員を疑うことではなく、職員を守る仕組みをつくることだと私は考えています。

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