【消防業務指導要領サイトを公開・PDF資料の配布を始めました】

消防の「育成キャンセル」を防ぐ 消防業務指導要領サイトを公開しました

2026年9月28日 · @Sunny

「ハラスメントが怖くて、指導できない」

消防業務の指導の仕方を具体的にまとめたサイト「消防業務指導要領」を、fdacademy.jp で公開しました。無料・登録不要で使えます。

最近、全国の消防本部で同じ声を聞きます。「強く言えばパワハラと言われる」「だから注意しないでおく」。上司や先輩が必要な指導を控え、若手が育たない。この状態を、私たちは「育成キャンセル」と呼んでいます。

ハラスメントをなくすことは大切です。しかし、その結果として指導そのものが消えてしまえば、現場で困るのは若い隊員自身と、助けを待つ住民です。

消防では「教えないこと」が最大のリスク

消防の現場は、命を扱う現場です。面体の着装、残圧の報告、退路の確保。ひとつの手順の抜けが、隊員自身と要救助者の危険に直結します。

育成キャンセルは、3つの層で被害を生みます。

  • 指導者:「言えば訴えられる」と注意をやめ、見て見ぬふりになる。
  • 若手隊員:基本を教わらず、自信も技術も身につかないまま現場へ出る。
  • 組織・住民:活動の質と安全が下がり、住民の命が危険にさらされる。

必要なのは、指導をやめることではありません。叱らない、ではなく、正しく教えることです。

指導とハラスメントの境界線

職場のパワーハラスメントは、次の3つをすべて満たす言動です。

  1. 優越的な関係を背景にしている
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
  3. 就業環境を害している

裏を返せば、業務上必要で、相当な方法で行う指導はパワハラではありません。

適正な指導ハラスメント
危険行為をその場で止める人格・容姿を否定する
できるまで反復訓練する罰として過剰な訓練を課す
個別に事実で注意する人前で長時間叱責する
根拠を示し改善を求める無視する・仕事を与えない

現場で危険が迫ったときは、「止まれ!」「退避!」と短く強く止めて構いません。命を守る指示は遠慮しない。そのうえで帰署後、個別に「なぜ止めたか」を落ち着いて説明します。これを「2段階指導」と呼んでいます。

サイトでできること

サイトは、読む・練習する・確かめるの3つがここで完結するように作りました。

内容規模できること
業務別 指導要領13業務何を指導するか、どう指導するか、NG→OKの言い方
ハラスメントにならない言動言い換え集60例パワハラ6類型、言葉以外のNG態度、「それならもう指導しない」への答え
各種ハラスメント対策6種類セクハラ、マタハラ、SOGIハラ、カスハラなどの定義・消防での例・対策
女性活躍推進指導の取組み6項目消防庁の検討会報告書にもとづく数値目標と職場での配慮
アサーショントレーニング技法と練習法DESC法、Iメッセージ、SBI、下から上への伝え方、ロールプレイ
育成編3タイプ+訓練24種指示待ち部下対策、1分・3分・5分・10分でできる自主訓練
訓練シナリオ1300ケース13業務×各100。安全管理・心的配慮・セカンドサポート付き
法令効果測定12法令×50問採点して評価と弱点分野を判断。解説と課題・改善案付き

訓練シナリオの各ケースには、場面、指導要領、実際にかける言葉、理由と解説を載せています。さらに、指導中の安全管理、相手への心的配慮、指導後のフォロー(セカンドサポート)まで書いています。法令効果測定は、消防組織法・消防法から地方公務員法、道路交通法、火災予防条例(例)、消防庁の主要な通知までを扱います。

明日から使える3つのコツ

1. 人格ではなく、行動と数字で伝える

伝える内容は同じでも、言い方で「指導」にも「ハラスメント」にもなります。

  • NG:「遅い!何回言わせるんだ!」
  • OK:「65秒。あと5秒、手袋を先にしよう」

2. DESC法で落ち着いて伝える

新人が進入前の残圧報告を忘れた場面なら、次の順で伝えます。

  1. 描写:「進入前の残圧報告がなかった」
  2. 表現:「隊の安全管理ができず心配だ」
  3. 提案:「進入前と定時に報告しよう」
  4. 選択:「難しければ一緒に練習しよう」

感情をぶつけず、事実→影響→提案の順に並べるだけで、相手の受け取り方は大きく変わります。

3. 若手は1分訓練から自分を育てる

待機中と1分があれば、面体着装1回、結索1種、管内の水利1か所の確認ができます。タイムと気づきを記録し、月に1回先輩と見直す。地域の住民の生命・心身・財産・生活・自由を守る力は、こうした短い練習の積み重ねから生まれます。

高所・荷重・火気・水難を伴う訓練だけは、必ず指導者か安全管理員の立会いのもとで行ってください。

管理職・組織の皆さんへ

指導者が安心して教えられるかどうかは、個人の資質より組織の仕組みで決まります。

消防庁の検討会報告書(令和7年12月)では、職場でハラスメントを受けた職員が約1割いるとされました。そのうち約8割がパワハラです。令和5年度のハラスメントによる懲戒処分は176件(206人)にのぼります。

サイトでは、消防庁の「ハラスメント等対応策」に沿って、対策を3つの段階に整理しました。

  • 未然防止:消防長の意志表明、懲戒処分基準の周知、定期的なアンケートと面談
  • 早期発見・介入:弁護士など第三者による相談窓口、多様な属性の窓口員
  • 再発防止:階層別研修、管理職の指導育成研修、行為者への再教育

2026年(令和8年)10月1日からは、改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります。救急現場での暴言や暴力、立入検査での威圧から職員を守る手順も、あわせて載せています。

女性消防吏員の比率は3.7%(令和6年4月1日)で、将来目標は10%程度です。「女性だから」で役割を決めない、体格差は力ではなく技術で補う、といった指導現場での取組みもまとめました。

PDF資料と研修での使い方

サイトの「資料ダウンロード」から、次のPDFを無料で入手できます。どれもA4縦で、そのまま印刷できます。

  • 消防業務指導要領(第1部〜第5部、186ページ)
  • 業務別 訓練シナリオ集 13冊(各100ケース、102ページ)

職場では、3人1組のロールプレイをおすすめします。1ケース12分でできます。

  1. 準備(2分):シナリオを読み、指導者役・隊員役・観察者役を決める
  2. 演技(5分):指導者役が実際に声を出して指導する
  3. 振り返り(5分):観察者→隊員役→指導者役の順に感想を言う
  4. 交代:役割を回し、全員が指導者役を経験する

当務の始まりに1ケース、月に1回法令効果測定を受ける。それだけでも、指導する側と受ける側の共通言語ができていきます。

おわりに

消防の人材育成は、隊員と住民の命を守ることそのものです。若手を育てたい指導者も、自分を育てたい若手も、ぜひこのサイトを使ってください。ご意見や、職場での活用例もお待ちしています。

▶ 消防業務指導要領:https://fdacademy.jp

作成:一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事 サニー カミヤ(xrescue.jp)

参考資料

#消防 #消防士 #人材育成 #ハラスメント対策 #育成キャンセル

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