訪問介護や訪問看護の事業所を管理している方から、「地震や豪雨のとき、点在する利用者の安否をどこから確認すればいいのか」という相談を受けることがあります。施設と違って利用者は地域に散らばり、スタッフも自宅や移動中にいる。この記事では、訪問事業所の管理者に向けて、災害時の安否確認の優先順位の考え方と、平時に整えておくべき準備を、私の現場経験をもとに整理します。
訪問介護・訪問看護の災害対応が難しい理由
訪問事業所の災害対応が難しいのは、状況が「面」で広がるからです。施設なら一つの建物の中で人数と状態を把握できますが、在宅の利用者は住まいも建物の強さも家族の有無も違います。さらに、スタッフ自身が被災者になり得ます。電話がつながらず、道路が寸断され、誰がどこにいるのか分からない時間帯が必ず生まれます。
私が救急隊員だったころ、地震のあとに最も心配だったのは、声を上げられない人でした。訪問事業所が持っている「誰がどこでどんな状態か」という情報は、地域にとって非常に価値の高いものです。
安否確認の優先順位をどう決めるか
発災直後に全員へ一斉に連絡するのは現実的ではありません。事前に利用者を三つ程度の区分に分けておくことをおすすめします。
- 最優先:人工呼吸器・在宅酸素・吸引などの医療機器を使用、または独居で自力避難が困難な方
- 次点:家族と同居しているが、移動に介助が必要な方、認知症で見守りが必要な方
- その後:自力で避難・連絡ができる方、近隣に支援者がいる方
この区分は、利用者台帳とは別に「災害用リスト」として一枚にまとめ、紙でも持ち出せるようにしておきます。停電すればパソコンも業務システムも使えません。また、区分は状態の変化に合わせて数か月ごとに見直すことが大切です。
連絡の順番だけでなく、「連絡がつかなかったときに誰が現地へ向かうか」も決めておきます。行ける人は、その利用者の近くに住んでいるスタッフであることが多く、担当ヘルパーとは限りません。住所地ごとにスタッフを割り当てておくと、発災後の判断が速くなります。
スタッフの安全を先に確保する
忘れられがちなのが、スタッフ自身の安全です。豪雨の中で訪問に向かい、道路の冠水で動けなくなる例は珍しくありません。私の経験では、支援者が二次被害に遭うと、救助の手がそちらに割かれ、結果として利用者を守れなくなります。「警報が出たら訪問を中止する」「夜間は単独で現地へ行かない」といった基準を、管理者が事前に文書で示しておくと、現場の迷いが減ります。
スタッフの安否確認も同時に必要です。まず家族の無事を確かめ、自分の状況を報告し、そのうえで動ける人だけが動く、という順序を共有しておきましょう。
平時に利用者・家族・地域と共有しておくこと
災害時に事業所が全員を助けに行くことはできません。その現実を、利用者と家族に平時から伝えておくことが誠実な対応だと私は考えています。医療機器を使っている方には、停電時の電源確保や、かかりつけ医・医療機器業者の連絡先を家族と確認してもらう。避難先をどこにするか、誰が付き添うかを、ケアマネジャーや民生委員も交えて話し合っておく。事業所が地域の避難支援の仕組みに情報を提供できるかどうかも、自治体と相談しておく価値があります。
受講者からは「うちの利用者は全員最優先に見えて、区分できない」という声をいただきます。全員を最優先にすると、結局は誰も最優先になりません。迷う場合は「今この瞬間に支援が途切れたら命に関わるか」を基準に、管理者が責任をもって決めることが必要です。
明日からできる訪問事業所の準備
まず、災害用リストの区分を担当者と一緒に一度作ってみてください。次に、スタッフの居住地ごとの担当割りを決め、訪問中止の基準を一枚の紙にまとめます。そして、通信手段が途絶えたときの集合場所と、事業所に誰も来られない場合の代行者を決めておく。これだけでも、発災直後の混乱はかなり減ります。訪問介護・訪問看護の災害対応は、助かる命を助けるための地域の重要な役割です。
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