取引先や親会社から求められてBCPを策定した。監査も通った。ところが、いざ社内で「地震が起きたらどう動くのか」と聞くと、誰もBCPの中身を思い出せない。そんな状態に心当たりのある経営層や総務の方に向けて書いています。私は数多くの災害現場で「計画はあったのに動けなかった組織」を見てきました。BCPが機能しない理由は、内容の良し悪しよりも「運用」にあります。ここでは、BCPを運用に落とし込み、見直しを回し続けるための3ステップを整理します。
BCPが機能しないのは「運用」が設計されていないから
私の経験では、機能しないBCPには共通点があります。一つは、文書が「作ること」を目的に書かれていて、災害の当日に誰が何ページを開くのかが決まっていないこと。もう一つは、担当者が異動したら誰も更新できなくなること。そして、一度も「動かした」ことがないことです。BCPは計画書ではなく、組織の動き方そのものです。動かしていない計画は、存在していないのと同じだと考えたほうが安全です。
ステップ1:BCPを「当日の行動」に翻訳する
最初にやるべきことは、分厚い本編を読み直すことではなく、発災当日に使う「行動カード」を切り出すことです。たとえば、初動を指揮する人、安否確認を回す人、取引先へ連絡する人、それぞれが最初の1時間に何をするかを紙一枚にまとめます。BCP本編は参照資料として残し、当日はカードだけで動けるようにする。これだけで「読まなければ動けない計画」から「見れば動ける計画」に変わります。
ステップ2:短い訓練で「動かして」穴を見つける
次に、半日がかりの大規模訓練ではなく、30分程度の短い訓練を繰り返してください。テーマは一つに絞ります。たとえば「社長と総務部長が出張中に震度6弱が来た」という前提で、代行者が本部を立ち上げられるかだけを試す。私が訓練の設計に関わるときは、うまくいくことよりも「止まった場面」を記録することを重視します。連絡先が古かった、鍵の場所を知らなかった、決裁権限が曖昧だった。こうした小さな穴こそが、本番で組織を止める原因になります。
ステップ3:見直しの「日付」を先に決める
三つ目は、見直しを担当者の善意に任せないことです。年度初めの人事異動後、防災の日、年末の3回など、見直す日を先に決めて経営会議の議題に固定してください。見直す内容は、連絡先と役割分担、取引先や仕入先の変化、訓練で見つかった穴の対応状況の3点で十分です。経営層が年に数回でも「BCPはどうなっているか」と口にするだけで、担当者の動きは大きく変わります。受講者の方からは「経営者が関心を示してくれるようになって、初めて社内が本気になった」という声をよくいただきます。
明日からできること
まずは、BCPの中から「発災後1時間に誰が何をするか」を1枚に書き出してみてください。書けない箇所があれば、そこが運用の穴です。次に、その1枚を使った30分の訓練を、来月の予定に入れる。そして、年内の見直し日を経営会議の議題に登録する。この三つが動き出せば、BCPは棚の上から会社の中に戻ってきます。
関連サービス
BCPを実際に動かすための行動カード作成、短時間訓練の設計、経営層向けの図上訓練などを行っています。詳しくは危機管理・防災訓練のページをご覧ください。講演・研修のご相談はお問い合わせフォームからお願いいたします。