大規模自然災害時の消防活動リスク|「助ける側」が被災者になるとき

「大規模災害では、消防自身が被災する。分かってはいるが、計画にどう落とし込めばいいのか」。消防本部の警防担当の方から伺う悩みです。この記事では、大規模災害時の消防活動のリスクを、「助ける側が被災者になる」という視点から整理し、警防計画と訓練に反映させる方法を、34か国の災害現場で活動してきた経験からお伝えします。

大規模災害の消防活動リスクは「通常災害の延長」ではない

日常の火災や救急では、消防は「無傷の救助者」として現場に向かいます。しかし大地震や広域の水害では、庁舎が損壊し、職員の家族が被災し、通信が途絶え、道路が使えなくなります。私が海外の被災地で見てきた光景も同じで、消防や救急の拠点そのものが被災し、隊員が家族の安否を知らないまま活動を続けていました。この状態を前提にしない計画は、発災直後に機能しなくなります。

「助ける側」を襲う四つのリスク

第一に、身体的リスクです。余震による倒壊、二次的な浸水、危険物の漏洩、感電。通常災害よりも環境が不安定で、「安全が確認された場所」がどこにもない状況が続きます。

第二に、判断のリスクです。要請が同時多発し、優先順位をつけざるを得ない。「あそこへ行かなかった」という判断は、後に隊員自身を苦しめます。

第三に、疲労と補給のリスクです。交代要員が来ない、食料と水が届かない、休息場所がない。私の経験では、活動三日目あたりから判断の質が目に見えて落ちます。

第四に、心のリスクです。家族の安否が分からないまま、地域の人の悲しみに向き合い続ける。惨事ストレスは、大規模災害では活動中から始まります。

警防計画に「隊員を守る項目」を入れる

多くの警防計画は「どう助けるか」で構成されていますが、「どう隊員を守るか」の項目は薄いのが実情です。私がお勧めするのは、次の観点を計画に明記することです。

  • 職員の安否確認と家族との連絡を、活動開始前に一度は保証する手順
  • 活動の上限時間と交代の基準を、指揮官の裁量ではなく規則として定める
  • 「行かない」判断の基準を事前に言語化し、隊員個人の責任にしない
  • 拠点が使えない場合の代替拠点と、そこでの休息・食事の確保

これらは装備の購入より先に、紙とペンでできる備えです。特に「行かない」判断の基準は重要です。基準がなければ、現場の隊長が「見捨てた」という負い目を一人で背負うことになり、それが活動中の無理な判断や、活動後の心の不調につながります。

訓練で「自分たちが被災した状況」を体験する

大規模災害の訓練は、多くの場合、消防が万全の状態で出動する想定で行われます。一度は、庁舎が使えない、職員の三割が参集できない、無線が通じない、という条件で訓練してみてください。その時に何が最初に崩れるかが、計画の弱点です。私が海外の救助活動で学んだのは、こうした「最悪の条件」を平時に一度でも体験しておくと、実際の災害で混乱の質が変わるということです。初めて経験する混乱と、一度でも経験した混乱では、立て直しの速さがまったく違います。

警防担当が明日からできること

自本部の警防計画を開き、「隊員」「家族」「休息」「交代」という言葉が何回出てくるかを数えてみてください。それがゼロに近ければ、そこが改善の出発点です。受講者からは「助ける側の被災という視点で計画を見直したことがなかった」という声をいただきます。隊員を守ることは、活動を長く続けるための前提であり、結果として地域を守ることにつながると私は考えています。

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