「災害対策本部の訓練を毎年やっているが、本番で機能するのか自信がない」。自治体の危機管理担当の方から、こうした相談をよくいただきます。台本どおりに進む訓練は安心感を与えますが、実際の災害で本部を苦しめるのは、台本にない情報の欠落と判断の遅れです。
この記事では、災害対策本部の図上訓練を通じて意思決定の課題をあぶり出し、次の訓練と本番に活かす方法を、私の現場経験から整理します。
災害対策本部の図上訓練で本当に試されるもの
図上訓練と聞くと、地図の上に被害状況を書き込む作業を想像されるかもしれません。しかし本来の目的は、限られた情報の中で「誰が・いつ・何を決めるか」を組織として確認することです。
私は海外を含む多くの災害現場で、本部の機能不全が現場の活動を止める場面を見てきました。情報は入ってくるのに整理されず、判断すべき人に届かない。逆に、判断者が細かな報告に埋もれて大局を見失う。図上訓練はこの「情報の流れ」と「判断の所在」を安全に試せる貴重な機会です。
訓練で繰り返し見つかる意思決定の課題
私が関わった図上訓練で、ほぼ毎回のように浮かび上がる課題を挙げます。
- 報告が「事実」と「推測」の区別なく本部長に届き、判断の根拠が曖昧になる
- 避難指示や物資要請など、時間制約のある判断の「締め切り」を誰も管理していない
- 本部長不在時の代理順位が紙の上にはあるが、代理者本人が判断の練習をしたことがない
- 各班が自分の班の状況を把握するのに精一杯で、班をまたぐ情報共有が止まる
いずれも能力の問題ではなく、平時に確認する場がなかっただけです。訓練で見つかることは前進であって、失敗ではありません。
「うまくいく訓練」より「詰まる訓練」を設計する
訓練を設計する側は、参加者が困る状況を意図的に用意する必要があります。たとえば、庁舎の一部が使えない、通信手段が一つ落ちる、矛盾する二つの報告が同時に届く、といった状況付与です。
ポイントは、状況付与の後に「今、誰が何を決めるべきか」を短く問いかける進行役を置くことです。私が進行を務める際は、判断を迫られた本部長役の方に、決めた理由と決められなかった理由をその場で言葉にしてもらいます。理由を言語化することで、判断基準が組織の共有財産になります。
振り返りは「反省会」ではなく「基準づくり」に
訓練後の振り返りで「連携が不十分だった」とまとめて終わると、翌年も同じ課題が出ます。有効なのは、詰まった場面ごとに「次はこの条件が揃ったらこう決める」と判断基準を文章にすることです。
受講者からは「訓練で迷った瞬間を具体的に振り返ったことで、自分の役割がはじめて腹落ちした」という声をいただきます。基準は完璧でなくて構いません。決めておいたものを本番で修正する方が、白紙から考えるより格段に速いからです。
明日からできる図上訓練の一歩
大規模な訓練を待つ必要はありません。まず、本部の各班長が集まる30分の会議で、一つの状況付与に対して「誰が決めるか」だけを確認してみてください。答えが即座に出ない項目こそ、次の図上訓練で扱うべきテーマです。災害対策本部の訓練は、回数よりも「詰まりを見つけて基準に変える」積み重ねが、本番の意思決定を支えます。
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