ロープ救助の「想定内」を増やす、無料の現場参照サイト
「訓練では、うまくいったのに。」
ロープ救助の現場で、この言葉を飲み込んだ経験はないでしょうか。
訓練場の支点は、いつも同じ場所にあります。要救助者役は、決まった位置で待っています。けれども実際の現場では、支点が見つからず、号令は風にかき消され、要救助者の容態は刻々と変わります。
当センターはこのたび、消防のロープ救助に関する知識を1か所にまとめたサイト「ロープレスキュー総覧」(https://roperescue.jp)を公開しました。無料・登録不要で、どなたでもお使いいただけます。
現場は、訓練どおりには来ない
ロープ救助は、消防の救助活動の中でも特に「判断」の比重が大きい分野です。
- ロープを使うのか、はしご車や階段で救出できるのか
- 吊り下げるのか、引き上げるのか
- 何を支点にするのか、何人で、どの器材を使うのか
結び方や器材の操作は、繰り返し練習すれば身につきます。しかし、この「どれを選ぶか」という判断は、さまざまな状況を想定しておかなければ鍛えられません。
当センターが大切にしている「想定内を増やして想定外を減らす」という考え方は、ロープ救助にもそのまま当てはまります。
知識は、あちこちに散らばっている
ロープ救助の知識は、教本、器材の取扱説明書、海外の資料、先輩隊員の経験談など、さまざまな場所に分かれて存在しています。
若手隊員が「この場面ではどうするのか」を調べようとしても、どこから手をつければよいか分かりにくいのが実情です。指導する側も、説明に使える資料を一から集めるのは大きな負担です。
ロープレスキュー総覧は、こうした知識を、基本原則から救出方法の選択、訓練の工夫まで、1つのサイトで順番にたどれるように整理しました。
世界の現場が教えてくれること
サイトに収録した国内外の実例からは、技術よりも判断と段取りにかかわる教訓が多く見えてきます。いくつか紹介します。
外から吊るすことにこだわらない
2014年、ニューヨークのワン・ワールド・トレード・センターで、69階付近の窓清掃用ゴンドラが傾き、作業員2名が取り残されました。ニューヨーク市消防局は外壁からの吊り下げではなく、窓ガラスを切断して建物の内側から2名を救出しています。ロープの技術を持つ隊ほど、ロープで解決しようとしがちです。最初に「内側から近づけないか」を考えることが、最も早く安全な救出につながることがあります。
救助者自身の足元を守る
2022年、米国ピッツバーグで雪の早朝に橋が崩落し、隊員は約46mを懸垂降下して人の列で要救助者を受け渡しました。この事故では、救助中に足を滑らせた隊員も負傷者に数えられています。急ぐ場面ほど、移動する隊員自身の確保を忘れてはいけません。
中止の基準を先に決めておく
2014年の御嶽山噴火では、火山ガスや火山性微動で活動が何度も中断され、関係機関と活動の中止・再開の基準を作って安全管理が行われました。危険が大きい現場ほど、「どうなったら止めるか」を活動前に全員で共有しておく必要があります。
サイトでできること
| 章 | 主な内容 |
|---|---|
| 基本原則 | 二重ロープ、安全係数、支点の角度と荷重 |
| 結索 | 主要な結び12種の用途と強度保持率の目安 |
| 支点 | 支点の種類と評価、消防車両を支点にするときの注意 |
| 倍力システム | 滑車の効率・荷重・人数から引き力を計算するツール |
| 器材 | 器材の役割と点検、メーカー別の価格、器材別の人気ランキング |
| 救出方法の選択 | 状況を選ぶと救出方法を絞り込めるツール、救助事案別の標準キット7種 |
| 活動マニュアル | 活動の8段階、隊の編成例、標準号令 |
| 状況予測シナリオ100例 | 設問形式の想定問題(解答・解説・資機材選択のポイント・活動上の注意つき) |
| 他装備との連携 | はしご車、油圧救助器具、ヘリ、ドローンなどとの組み合わせ |
| コラム | 訓練中の課題や救助方法の選び方を掘り下げる読み物25本 |
すべてのページは、日本語と英語を切り替えて読むことができます。
特に力を入れた「状況予測シナリオ100例」
サイトの中心は、現場を想定した100の設問です。
各シナリオでは、まず「現着時に見える状況」と「予測すべき危険」だけが示されます。読む人は、最適な救出方法と資機材を自分で考えてから、「解答と解説を見る」を開きます。
解答には、次の内容をまとめています。
- 解答:選ぶべき救出方法
- 解説:その方法が適する理由と、ほかの方法が劣る理由
- 資機材選択のポイント:最も重要な器材と、追加で持つべきもの
- 活動上の注意:二次災害、中止の基準、救助者自身の安全
高所、縦坑、斜面、水難、産業施設、交通事故、災害、火災などの分類に加え、御嶽山噴火や熱海の土石流、海外の洞窟救助や橋梁崩落など、国内外で実際に起きた困難事案11件も出典付きで収録しています。
明日の訓練で使える3つの方法
1. 朝の5分で1問
当務の始まりに、シナリオを1つ読み上げます。隊員それぞれが救出方法を一言で答え、その後に解答を開きます。5分あれば十分です。毎日続けると、判断の引き出しが確実に増えていきます。
2. 班に分けて図上訓練
「すべての解答を閉じる」状態でシナリオを選び、班ごとに10分ほどで方法と資機材を決めて発表します。解答と違う方法を選んだ班があれば、その方法の利点と弱点を全員で話し合いましょう。「夜間になった」「隊員が4名しかいない」など条件を1つ加えるだけで、同じ設問がまったく別の訓練になります。
3. 実働訓練へつなぐ
図上訓練で選んだ方法は、標準キットと活動マニュアルの手順を使って、実際の人数と時間で試してください。机の上で成り立った方法が現場でも成り立つかを確かめることで、判断の精度が上がります。
指揮者・訓練担当の皆さんへ
ロープ救助の事故の多くは、器材の性能ではなく、確認の抜けや思い込みから生まれます。二重ロープが同じ支点に取られていた、確保ロープの操作者がメインと同じ隊員だった、といった見落としは、訓練の中でこそ見つけておきたいものです。
訓練で見つけておきたい見落としと、サイトで確認できる箇所をまとめました。
| よくある見落とし | 起こりうること | サイトの確認先 |
|---|---|---|
| メインと確保が同じ支点 | 支点が壊れると両方が同時に失われる | 基本原則/支点 |
| 支点の脚の角度が広すぎる | 各脚に想定以上の荷重がかかる | 基本原則(角度と荷重の表) |
| エッジ保護がずれている | 荷重下のロープが角で切れる | コラム「エッジ管理がシステムを守る」 |
| カラビナで滑車を代用 | 倍力の効率が落ち、引き手の負担が増える | 倍力システム(計算ツール) |
| 号令が隊員に届いていない | 操作のずれが荷重の急変を生む | 活動マニュアル(標準号令) |
| 設定した隊員だけが確認 | 思い込みによる連結ミスを見逃す | 基本原則(全員確認) |
サイトのコラムでは、「訓練で起きやすいヒヤリハットと防ぎ方」「安全管理者がいる訓練、いない訓練」「要救助者役の安全をどう守るか」など、訓練を計画する立場の方に向けたテーマも取り上げています。訓練計画を立てる際の確認材料としてお使いください。
PowerPoint版マニュアルの配布
サイトから、PowerPoint版の「ロープレスキュー活動マニュアル」(全39枚・4:3)を無料でダウンロードできます。
- サイト上部の「マニュアルDL」を開く
- 「ダウンロード(.pptx)」を押す
- 所属の要領や器材に合わせて、自由に編集して使う
基本原則、結索、支点、倍力、器材と点検、救出方法の選択、救出方法別の手順、活動の流れと号令、標準キットの9章で構成し、すべてのスライドに図解を入れています。署内の勉強会や新任隊員の教育、講習会の教材としてご活用ください。
おわりに
ロープ救助は、一つの判断の誤りが隊員と要救助者の命に直結する活動です。だからこそ、現場に出る前に、どれだけ多くの状況を「想定内」にしておけるかが問われます。
ロープレスキュー総覧は、完成した教本ではなく、現場の知見で育てていくサイトです。掲載している数値はすべて目安です。実際の活動は、所属機関の要領・基準、器材の取扱説明書、指揮者の判断に従ってください。
「この場面のシナリオも加えてほしい」「うちの隊ではこう使っている」といったご意見や活用例を、ぜひお寄せください。
▼ロープレスキュー総覧
https://roperescue.jp
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作成:一般社団法人 日本防災教育訓練センター 代表理事 サニー カミヤ
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