病院の防災訓練を見直したい管理者の方へ
「年に2回の防災訓練はやっているが、本当に災害時に機能するのか自信がない」。病院や介護施設の管理者の方から、そんな相談をよくいただきます。この記事では、一般企業の防災とは決定的に違う医療・介護施設の特性を整理し、病院の防災訓練を見直す視点をお伝えします。
私は消防・救急の現場で、被災した病院や施設に入った経験があります。そこで感じたのは、施設が「避難する場所」ではなく、災害のさなかも「守り続ける場所」だという事実でした。
なぜ「逃げる訓練」だけでは足りないのか
多くの施設の防災訓練は、火災を想定した避難誘導が中心です。それ自体は大切ですが、地震や風水害では事情が変わります。入院患者や要介護の利用者は自力で動けない方が多く、外に出すこと自体がリスクになります。人工呼吸器や酸素、点滴が必要な方を屋外に連れ出しても、そこでケアを続けられなければ意味がありません。
つまり、医療・介護施設は「全員を外に出して終わり」ではなく、「建物の中で安全にケアを継続する」ことが基本方針になる場面が多いのです。にもかかわらず、訓練だけが「逃げる」前提でつくられていると、本番で判断が止まります。
もちろん、火災のように「その場に留まることが命取りになる」災害では、迅速な避難が最優先です。大切なのは、災害の種類と自施設の条件によって方針が変わることを、管理者だけでなく現場の全員が理解しておくことです。判断の基準を共有していない施設ほど、本番で「誰かの指示待ち」になりやすいと私は感じています。
守り続けるために先に決めておく3つのこと
私が施設の管理者にお勧めしているのは、次の三点を先に決めることです。
- どの状況で「留まる」、どの状況で「動く」のか。判断の基準と、判断する人
- 電気・水・酸素・薬が止まったとき、それぞれ何時間もつのか
- 夜間・休日の最少人数のとき、誰が何をするのか
この三つを決めると、訓練の内容は自然と変わります。避難経路を歩くだけでなく、「停電した。非常電源は動いたが燃料は何時間分か」「エレベーターが止まった。3階の利用者をどうするか」といった判断を求める訓練になります。
訓練を見直す具体的な手順
まず、現在の訓練シナリオを一枚にまとめ、「災害の種類」「時間帯」「参加人数」を書き出してみてください。多くの施設で、平日日中・火災・全員参加という条件しか試していないことがわかります。
次に、条件を一つだけ変えます。たとえば「夜間、職員は夜勤の3名だけ、強い地震」という設定にすると、訓練の難易度は一気に上がります。最初はうまくいかなくて構いません。うまくいかない箇所こそ、実際の災害で人が亡くなる箇所です。訓練でそれを見つけられたなら、その訓練は成功です。
受講者からは「訓練の目的が『合格すること』から『弱点を見つけること』に変わった」という声をいただきます。この意識の転換が、見直しの本質だと私は考えています。
明日からできる病院の防災訓練の見直し
まずは、次回の防災訓練の想定を「夜間・最少人数」に変えてみてください。そして訓練後に、うまくいかなかったことを責めずにすべて書き出す。それだけで、施設の防災は「逃げる場所」から「守り続ける場所」へ向けて動き始めます。
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